Column 0221

うみのこを守る仕事

琵琶湖を周遊するうみのこ

Introduction

滋賀県で育った人にとっては馴染み深い琵琶湖の学習船「うみのこ」。約40年ぶりにリニューアルされる際、田辺工業も食堂と操舵室づくりで関わった。滋賀県の子どもたちの学びと笑顔をつなぐ物語。

Direction & Writing / MANABU ISHIKAWA Photographer / TEPPEI HAYAKAWA

40年ぶり「うみのこ」のリニューアル

滋賀県の小学5年生を対象に「ふるさと滋賀や琵琶湖の自然を体感し、環境について考える機会」として始まったフローティングスクール。その舞台となるのが学習船「うみのこ」。1泊2日の船内宿泊体験で異なる学校の子どもたち同士がふれあい、友情を育む機会になっている。その「うみのこ」が2018年に約40年ぶりに新しい船になった。田辺工業も食堂のテーブルや椅子、そして大会議室のカウンター製作で携わった。

リニューアルされたうみのこ

仕入れのキセキ

滋賀県から話がリニューアルの話が届いた時、大きなハードルになったのが予算のことだった。木材の卸問屋や小売を通した一般的な仕入れでは全く予算に合わない内容だったことから、田辺工業自ら競市に参加し直接仕入れることに舵をきった。

積み上げられた丸太

そんな折、たまたま意富布良神社の大木が台風の影響で倒れ、市に出品される事を聞きつけた。その大木を前に材料として使える部分を即座に見極め、必要になる木材量とを冷静に比較計算して、この大木一本でギリギリまかなえることを判断し仕入れた。そしてその判断は正しかった。最終的にきっちり1本の大木から、全てを仕上げた。「キセキだった」と当時を振り返って熱っぽく田邉氏は話してくれた。

当時を振り返って話してくれる田邉氏

プロの責任感とみんなの愛情

田辺工業の工夫はそれだけではなかった。少しでも長持ちすること、将来的なメンテナンス性を考え、仕事仲間の木工所とともに機能性や意匠性には手を抜かなかった。耐水性を保ちつつ、美しい木目を損なわないよう、薄くマットな塗装で表面を仕上げたテーブルと椅子。少しでも良い思い出となるように、温かみが伝わるように、心を砕いた。

完成した食堂のテーブルと椅子

そのため、運送や取り付けコストまで予算が回らないことを事前に想定していた。そこで、自分たちの仲間やその家族に呼びかけ、みんなで楽しみながら創り上げるイベントとして企画した。予算内で仕上げただけではなく、滋賀県産の無垢木で造り上げたこと、神社の大木を失った方々にも誇りに思ってもらえたこと、手伝ってくれた仲間みんなで喜び合えたことなど、小さなキセキと小さな工夫そして大きな愛情が結びつき大仕事をやり終えた。

完成した食堂

プロの責任感とみんなの愛情

テーブルを修復する職人

その時から2年、仕事の合間を縫って田辺工業では「うみのこ」のメンテナンスを定期的に続けている。自分たちが担当した箇所はもちろん、それ以外の部分でも気づいた不具合があれば直ぐに報告をして、可能な限り修復をしている。取材に伺った日も、田邉氏自らデッキの修復をしていた。当時自分たちが担当した部分ではないから関係ないではなく、子どもたちが元気に安全に「うみのこ」で学べる環境づくりが現在の自分たちの仕事だと話してくれた。